【その常識は過去のもの】温暖化/気候変動対策が生活の質を脅かす?
皆さんおはようございます、八重さくらです!
今回は気候変動対策が生活の質に与える影響について、とある誤解を解いていきます!
突然だが、まずはとある意識調査の結果をご覧いただきたい。
これは2015年の世界市民会議「気候変動とエネルギー」での意識調査の結果で、「気候変動対策が生活の質に与える影響」の回答内容だ。
世界全体で6割以上が「多くの場合、生活の質を高めるものである」と答えているのに対し、日本では逆に6割が「多くの場合、生活の質を脅かすものである」と回答しており、真逆の答えとなっている。
この「生活の質を脅かすもの」と回答した理由は、例えば「気候変動対策をするには何かを我慢したり、やめたりする必要がある」と思っている人が多い可能性があり、感覚的にも理解できる。
それでは、一体なぜ世界全体の6割以上の人が「生活の質を高める」と答えたのだろうか?
今回はその理由を探してみよう。
気候変動が招くもの
さて、まずは気候変動対策を怠り、このまま気候変動が進んでしまった場合に何が起こるか見てみよう。
①自然災害
気候変動によって地球全体の平均気温が上昇したり異常気象が増えることで、自然災害が増えたり規模が大きくなることが指摘されている。ILO(国際労働機関)は2030年までに日本の国家予算の2.5倍にあたる約250兆円の経済損失が発生する可能性があると試算しており、具体的には以下のような原因が考えられる。
※参考:気候危機、世界経済むしばむ 30年までに250兆円損失
【海面上昇】
気温が上昇して陸地にある氷床が溶け、溶けた水が海に流れ出ることで海面が上昇、その結果砂浜の消失や高潮の被害が増えると予想されている。
日本国内では2018年の台風21号で関西国際空港が高潮により水没したことが記憶に新しいが、IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)によると2100年までに最低でも26センチ、最大で82センチ海面が上昇すると予想されており、もし海面が1m上昇すれば日本の砂浜の約9割が消えることになる。
※参考:地球温暖化による海面上昇とは?近年における海面の変化や現状を解説
【海水温度上昇】
温暖化により海水温度が上昇すれば豪雨や(発生件数は減るものの)大規模な台風が増え、洪水や暴風による被害が増えると予想されている。
日本国内では2018年7月に西日本豪雨により河川が決壊して広い地域に浸水被害が出たが、オランダ王立気象研究所の研究によると気温が1℃上昇する毎に降水量が少なくとも約7%増えるとされていて、仮に2℃上昇すれば降水量は14%増えることになる。
【干ばつ】
熱波や渇水が増えて水不足や干ばつが発生し、特に被害が多いアフリカ大陸では主要産業である農業が打撃を受け、食糧難が発生すると予想されている。
例えば2019年にはジンバブエで穀物の生産量が前年比で53%減減り、360万人が食糧難に陥った。IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)では2050年に穀物の価格が最大で23%上がると予想されている。
【森林火災】
熱波により高温で乾燥した状態が続くと森林火災の危険性が高まる。
例えば2019年冬にオーストラリアで大規模な森林火災が発生したことは記憶に新しく、2020年3月に鎮火するまで240日間燃え続け、類焼面積は186,000平方キロメートルにのぼる。これはオーストラリア国土の約2.4%、なんと日本の面積のおよそ半分にあたる。
そして今後さらに気候変動が進めば森林火災の件数が増え、規模も大きくなると予想されている。
②生態系破壊
地球上の生物は既知の種類だけで175万種ほどあり、全ての生物が生態系を構成し、お互いに影響を及ぼしている。もし気候変動によりこれらの生物の生息地域や個体数が変化すれば、我々の生活にも以下のような影響を及ぼすことになる。
- 漁獲量の減少(回遊性魚介類)
- 水質悪化や渇水の深刻化
- マツ枯れなど病害虫、菌類、ウィルスの分布拡大
- 洪水や土砂災害などの増加
- 観光資源の変化
- 害虫による農作物の被害
ここ数年は特に農作物の被害が大きくなっており、FAO(国際連合食糧農業機関)によると2020年内に東アフリカやイエメンで合計4,200万人が飢餓に直面するとしている。
これらの様に気候変動はむしろ何もしなければ我々の生活を脅かすものとなり、気候変動対策をすることでこれらの脅威から身を守ることにつながるのである。
気候変動対策が必要なのはわかりましたが、そうは言っても多額の費用がかかり、経済負担になるのではないでしょうか?
気候変動対策は生活の質を脅かす?
確かに1997年に京都議定書が採択された当時は「気候変動対策は経済的な負担が増える」とされ、各国とも自国の対応内容を減らそうとしたという。冒頭の意識調査でもその意見が反映された形となったのだろう。
しかしその認識は2016年のパリ協定を堺に大きく変わり、現在では世界中の企業がこぞって気候変動対策に投資する様になり、大きなビジネスチャンスと捉えられるように時代が変わった。経済産業省によると気候変動対策の市場規模は2030年に最大で年間30兆円、2050年には50兆円に達する見込みという。
2019年のG20サミットを前に、安倍首相もこれに則る形で「もはや温暖化対策は企業にとってコストではない。競争力の源泉だ」と語っている。
更に世界で多大な影響を与えているのは2019年12月に行われたCOP25において、日本の国家予算の40年分に相当する37兆ドル(約4千兆円)以上を運用する機関投資家グループが署名した共同声明だ。声明では各国政府に対して「確実なパリ協定の達成」などいくつかの要請が含まれていて、この声明に沿った対応ができれば大きなチャンスを掴めるだろう。
※参考:INVESTOR AGENDAの共同声明
チャンスを掴んだ成長企業
実際にチャンスを掴み急成長している企業を例として上げるならば、蓄電池を開発するエネルギー関連企業が今の旬と言えるだろう。
蓄電池は再エネを活用する上での最重要技術の一つで、例えば以前の記事ではフロー電池を開発する企業である「FormEnergy」を紹介した。この企業は2019年に4000万ドル(約43億円)を資金調達しており、電力網に直接接続できる格安な蓄電技術として期待されている。
また、近年米中を中心に多くの有力な電気自動車の新興メーカーが誕生し、これらの企業の多くは蓄電池技術の研究開発にも積極的に投資している。
例えばシリコンバレーに本社を置き急成長を続けているエネルギー企業であるテスラ社は、日本を含む世界中に蓄電池をはじめとしたエネルギー製品を輸出している。
もちろん上記以外にも様々な再エネ関連企業が世界中で急成長を続けており、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)によると2018年で1,100万人の雇用を創出したとされている。
※参考:2018 年の再生可能エネルギーでの雇用は世界で 1100 万人に
コロナ禍からの回復
2020年、コロナ禍により世界経済は大きな打撃を受けた。しかしその第一波が過ぎた今、コロナ禍からの復興策として中国やイギリスでは一気に電気自動車用の急速充電器の整備を進める大規模な計画を発表。
これらの政策の最も重要な点は「その場限りの消費を促すことではなく、将来を見据えた戦略的な投資である」という点だ。IRENAの報告によると再エネへの投資は3倍~8倍の見返りが期待できるとされ、仮に今1億円投資した場合、将来的に3億円~8億円の経済効果が得られることを意味する。
※参考:世界の再生可能エネルギーの展望 エネルギー転換 2050(重要所見)
今こそ気候変動対策の技術革新によって世界をリードし、その経済効果によってコロナ禍から回復するときではないだろうか。
気候変動対策はこれからの経済を支え、生活の質を高めるものだったのですね~。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!