【ファクトチェック】No.001「本命はロータリーにあらず、百花繚乱のBEV用発電エンジン」From日経XTECH

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皆さんおはようございます、八重さくらです!

今回はメディアの「嘘」を暴くファクトチェックシリーズ、その記念すべき第1回をお送りします!

記念すべき第1回に選ばれた記事は日経XTECHより「本命はロータリーにあらず、百花繚乱のBEV用発電エンジン」です。
タイトルの「BEV用発電エンジン」からして違和感満載なのですが、滅気ずにチェックしていきましょう!

まずはタイトルから

さて、タイトル冒頭でも指摘したタイトルにある「BEV用発電エンジン」という文章。

ひと目見ただけで「BEVなのにエンジン?」という違和感があるのだが、実はBMWのi3の様に「基本は充電して走行するけれど、走行距離を伸ばすために発電用のエンジンも付いている」車があり、このエンジンは一般的に「レンジエクステンダー(RE)」と呼ばれている。

ではこれが「BEV」なのかと言われると、これには疑問が残る。

例えばWikipediaのBEVの項目を見ると、

電動機と内燃機関の両方を使用した輸送機器は、例えばハイブリッド式電動輸送機器(英語版)であり、またそれはcharge-sustainingモードで動作するため、純正(もしくは完全)EVとは見なされない。

とされていて、上記のBMW i3(RE付き)は英語版Wikipediaのハイブリット車の説明にもれっきと「プラグインハイブリッド」と明記されており、REが付いた車を「BEV」というには無理があるだろう。

 

一般消費者が勘違い?

続いて、早速1行目からツッコミどころが。

一般消費者に「二酸化炭素(CO2)ニュートラル」と勘違いされている電気自動車(BEV)を矢継ぎ早に市場投入する。

ひょっとして・・・一般消費者をバカにしているのだろうか?
環境に悪い火力発電をなくし太陽光発電等の再生可能エネルギーに置き換える必要がある事は小学生でも知っていることであり、まともな人だったら「電気を使っているからCO2は排出しない」とは考えないだろう。

【理科編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説.png
文科省「小学校学習指導要領(小6理科)」より

 

その思い込みは本当?

続いてはこちら。

ID.3の基本モデルのBEV航続距離は、330km(WLTCモード)にとどまる。しかも急速充電でも満充電に30分はかかるそうだ。使い勝手はイマイチ。

ID3はVWが発売を予定しているBEVで、急速充電に30分かかるために使い勝手が悪いと思っている様だ。
毎日のようにBEVを使っている人からすれば、この文章だけでBEVの正しい使い方を知らない事がわかる。

例えば私の事務所の場合、充電にかかる時間は「減ってきたらコンセントを挿す」という15秒だけである。
「充電が終わるまで何時間もかかる」と言われるかもしれないが、もし充電が終わるまで何時間も車の前で待つ人が居るのならばここに連れてきてほしい。

もちろん1回の充電で走れる航続距離より遠くに行く場合はドライブの途中で充電する必要があるが、例えばテスラモデルSの航続距離である600kmを休憩無しで走る事はプロでも禁止されており、非常に危険な行為だ。

運転を続けてしてもいい時間ってどのくらいの長さが目安になるのか調べてみた|中古車なら【グーネット】.png
連続運転時間(goo-netより)

 

航続距離とバッテリー

次はこちら。

ただどの車両もBEVとしての多くの欠点が残ったままだ。航続距離がWLTCモードで350k~450kmと短い。延ばそうとすれば電池の搭載量が増えて重くなり、今度は電池という“荷物”を運ぶのにエネルギーを使ってしまう(図3)。

航続距離について「350km~450km」では短いとされるが、一般のドライバーでその距離を休憩無しで走る人がどれだけ居るのだろうか?
また、例えばテスラモデル3のロングレンジであれば560km、モデルSであれば610kmを無充電で走れる事を知らないのかと疑問に思う。

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モデル3とモデルSの航続距離(テスラ公式サイトより)

次に電池の重量について。
確かに電池が増えると車重が増えるが、それに使うエネルギーがどれくらい変わるかといえば、例えば

  • テスラモデル3スタンダードレンジ:50kWh/409km=122Wh/km
  • テスラモデル3ロングレンジ:75kWh/560km=134Wh/km

であり、バッテリーを1.5倍に増やしても電費の差は1割にも満たない

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バッテリーサイズによる電費の比較

当然ながらロングレンジの134Wh/kmでも殆どの場合は内燃機関車より低コスト・低環境負荷である。

EVとHVのCO2排出量比較
EVとHVのCO2排出量比較

※発電によるCO2排出量は日本の2016年実績値
※国内のプリウスはJC08モードしか公開されていないため、2019年欧州モデルで比較

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ここで折り返し地点。休憩しながら続きをお読みください!

 

基本は自宅

更にこちら。

急速充電には、電池の寿命を短くする負の側面も見逃せない。さらにBEVが普及して多くの人が同時に急速充電をすると、電力網がパンクすることは簡単に想像がつく。

根本的な勘違いとして「基本はあくまで普通充電であり急速充電は満充電の航続距離では辿り着けない時の緊急用」というBEVの使い方を理解していないようである。

長年ガソリンスタンドでしか給油できない内燃機関車を使い続けたらBEVの使い方は想像できないのも無理はないが、これでは「想像」ではなくただの「妄想」だ。

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EVは自宅充電が基本(テスラ公式サイトより)

 

理論は万能じゃない

そして次。

リチウムイオン電池は、氷点下になるほど内部抵抗が増加し、電池容量が大きく低下する。-30度の環境でBEVを始動するのは難しい。

一見すると正しい理論の様に見えるが、実際のデータを見れば机上の空論だということがわかる。

例えば新車販売の49.7%をBEVが占めている北欧ノルウェー、その最北端キルケネスでは冬場に-25℃程度まで下がる事もある。

また、以下の動画では(バッテリーが暖まるまで出力は下がるものの)外気温-36℃でも問題なく始動できており、エアコンをつけてもエンジンの振動に妨げられない快適な車中泊も可能である事が伺える。


更にBEVであれば(例えガレージに停めた状態でも)排気ガスを気にすること無くエアコンを作動させることができ、車に乗り込んだ瞬間から快適な空間が出迎えてくれる

 

技術の進歩は止まらない

そしてこちら。

最近大幅に性能は向上したが、性能、耐久性、生産性のどれを見てももの足りない。現段階で一般消費者がBEVを買うとは、とても思えない。

バッテリーの性能や価格は想定を上回る速さで進歩をしており、最近のニュースでは「内燃機関車と同程度の価格で160万km走行可能なバッテリーが間もなく登場する」とされている。

更にその後の本文内ではテスラが売れている事に対して「高級なBEVがお好きな富裕層が一定数はいるのだろう。」と色物扱いしているが、先程触れたとおりノルウェーでは新車の約半数をBEVが占めているし、イギリスでは2020年4月に内燃機関が9割以上減少したのに対しBEVの減少はわずか1割未満だった。

 

まとめ

この後、本記事では上記のような間違った情報を前提に

しばらくレンジエクステンダーが必要

という誤った結論を導き出し、最適なREについての議論を続けている。

BEVでは短期的な収益性が悪化するため「エンジンを売りたい」という既存自動車メーカーの気持ちは理解できるものの、その為に嘘を並べてもイノベーションを止めることはできない

もしこのまま内燃機関に縋り付き続ければ、かつてガラケーがスマホに置き換えられて国内の携帯電話メーカーが壊滅した様に、国内の自動車メーカーが壊滅する可能性もある。

そうならないためにもメディアには真実を発信する義務があり、自動車メーカーに対して長期視点で戦略的な経営が出来るように促す役割を果たすべきだろう。

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第1回から長くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
また香ばしい記事が見つかったら次回も続きますのでお楽しみ~!

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