【ファクトチェック】No.003「テスラの株価もマスク氏の報酬も超バブルだ」From東洋経済オンライン

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皆さんおはようございます、八重さくらです!
今回はメディアの「嘘」を暴くファクトチェックシリーズの第3回をお送りします!

ファクトチェックシリーズの第3回に選ばれた記事は東洋経済オンラインより「テスラの株価もマスク氏の報酬も超バブルだ」だ。

タイトルだけ見ればあながち間違っているわけではなく、テスラの株価はこれまでも激しく上下してきた。
しかし中身を見ると明らかな「嘘」を多分に含み、多くの聞き手にとって耳障りの良い単なる「アクセス稼ぎ」の記事にほかならない。

アクセスを稼ぐ事が悪いとは言わない。
しかし時に「嘘」が国の主力産業、さらに国自体をも滅ぼす可能性すらあることを理解しなければならない。

1.コスト・利便性・実用性・汎用性

コストはどう考えても割高だし、利便性は悪いし、実用性、汎用性においてはリスクがある。

最初からあまりにもツッコミ所が多すぎて追いつかなくなりそうだが、一つずつ検証しよう。

1-1.コスト

まずはコスト。

これは既に色々なメディアにて検証済みであるが、例えば「EV Savings Calculator」という価格比較サイトでテスラモデル3と同クラスのガソリン車を比較した結果がこちら。

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モデル3とVWゴルフRの10年間の保有コストの比較(EV Savings Calculatorより)

結果は一目瞭然、テスラモデル3のほうが1割以上も低コストという結果となった。

上記の例ではガソリン140円/L、年間走行距離1万km、10年間保有する場合のコストを計算しているが、自分の使い方でのコストが知りたい場合は上記のサイトにて確認できる。

また、以下の記事ではこれが机上の空論ではない証拠として、タクシー会社や警察車両として導入した結果、実際に大幅にコストを削減できたという証言がされている。

※証言1:電気自動車の黒船“テスラ”は本当にすごいのか?
※証言2:Tesla Model 3 adopted by German taxi operator over mass savings in fuel and maintenance costs
※証言3:Tesla Model 3 officially joins police force in Indiana, cost savings highlighted

確かに初期費用だけで比較すればEVの方が高いが、仮に「コスト=初期費用」と考えているとしたら、それはEVを全く理解していない証拠である。

1-2.利便性

次に利便性。

主に航続距離や充電時間を指していると思われるが、テスラモデル3ロングレンジの航続距離は560km、モデルSロングレンジに至っては610kmであり、一般的なガソリン車と同レベルである。

そして充電時間についても、例えばモデル3を最新のテスラスーパーチャージャーで充電した場合、5分で120km走行分を充電可能である。

※参考:V3スーパーチャージングを発表
※関連記事:【基礎から】2020年の賢い電気自動車の選び方【ちょっとマニアックな情報まで】

もし「休憩なしで1,000km走りたい」というのであれば物足りないかもしれないが、そんな鉄人のような人がどれだけ居るかを教えてほしい。

1-3.実用性・汎用性

最後に実用性と汎用性。

どの部分を指して「EVの実用性・汎用性にリスクがある」と言っているのかは不明だが、一般的なEVの使い方として、平常時の充電は自宅で行うことが大前提である。

コンセントは全てのご家庭にもあり、より高速に充電するための200Vコンセントもほとんどの場合は数万円程度の工事ですぐに取り付けできる。

ガソリンスタンドでしか給油できないガソリンとは異なり、EVは帰ったらコンセントにつなげるだけで、翌朝には満タンで出発できるのだ。

また、「EVは災害に弱い」というのも大きな勘違いである。
災害時には毎度のようにガソリンスタンドに長蛇の列ができるが、電力は広範囲が全て停電することは非常に稀であり、全国約2万箇所の公共の充電器の中から使用可能な場所を探すことは難しくない。

もし仮に停電しても電気は復旧が最も速いライフラインであり、それでも心配であれば自宅に太陽光発電や蓄電池を付けることも可能。ちなみにこれは自宅に油田と精油所があることと同義である。

2.イノベーションのジレンマ

技術的には、既存の大手自動車メーカーなら、電気自動車を作ることはできる。技術的に遅れることはない。むしろ、それが問題で、誰でも参入できる、実際、テスラが参入できたわけだから、技術的に遅れるということはない。

これは「イノベーションのジレンマは存在しない」という主張の一文であるが、「作ることができる」と「ユーザーに選ばれるEVを作ることができる」を混同した文章だ。

例えばスマホが登場したとき、スマホで使える機能である「通話」「メール」「カメラ」「ネット」「アプリの追加」など、全ての機能がガラケーにも付いていた。

それだけではなく、さらにガラケーであれば「お財布ケータイ」「ワンセグ」といった国内で重視されていた機能も付いていた。

しかしそれでも、消費者はデザインや操作性など「UX(ユーザ体験)」が優れたiPhoneを選んだ

1度でもテスラに乗ったことがある人なら「テスラはAppleのように何よりもUXを重視している」ことを理解しており、既存メーカーにはない「唯一無二の使い勝手」によりシェアを伸ばしていることに気づくだろう。

3.自動運転の重要性

自動運転やカーシェアの方が革命を起こす可能性がある。(略)
自動運転については、米グーグルなどの先端AI技術のプレーヤーが主導するのか、あるいは自動車メーカーが主導なのか、それが大きな違いだが、両グループが共同でやることになるのは間違いがなさそうだ。(略)テスラも既存のメーカーも、同じ土俵に乗っていると言える。

「自動運転が今後の鍵を握る」ところまでは正解だが、テスラが「先端AI技術のプレーヤー」であることを理解できていないようだ。

AIの開発において何よりも重要なのは学習用のデータであり、高品質なデータを大量に用意できなければ優秀なAIを作ることは難しい。

テスラは既に世界中で約100万台の車両が走っており、テスラはいつでもそれらの車両からインターネット経由で学習用のデータを取得できる

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2020年2月に行われたテスラAI責任者であるAndrej Karpathy氏の発表より

データの質や量に関して言えば、既存メーカーは疎かGoogleでさえテスラには追いつけないのである。

4.テスラはステータス?

「どうみても割高なのに、なぜテスラ車を買う人がいるのか」という問題である。

最初に指摘したとおりテスラは世界中の多くの地域でガソリン車よりも低コストで所有することが可能であり、「コストパフォーマンスの良さからテスラを選んでいる人が少なくない」ことを知らないのはとても残念である。

テスラに乗っている、ということがステイタスなのである。環境意識が高い、世の中でもっとも進んでいる、人とは違う、自分もイノベイティブだ、など、自己主張のために買っているのである。

もちろん一部にそのような人が居るのは確かだが、それが全てかと言われれば「NO」であるし、少なくとも筆者はそうではない。

統計は存在しないが、そのような人が居ることはググれば秒でわかるだろう。

5.生産台数と販売価格

テスラも、簡単に作れるものであるのに、テスラという未熟なメーカーが作っているから、なかなか生産台数が増やせない。

簡単に作れるとはどのような意味だろうか。

例えば各メーカーのEVの電費を比較するとモデル3がTOP3を独占しているが、その下に居る同一車格である「Hyundai Kona」「Chevy Bolt」「Nissan Leaf」のどれよりも速くて航続距離が長い

確かに「とりあえず走れば良い」のであれば簡単だが、どんなに作るのが簡単でも性能が低ければユーザーに選ばれることはない。

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EVの電費比較(2019インパクトレポートより)

生産台数が増やせないというのも「真っ赤な嘘」だ。

2019年のQ4まではほとんどカリフォルニア州にある1つの工場のみで生産していたが、IR資料を見れば納車台数は伸び続けていることがわかる。

さらに2020年のQ1~Q2はCOVID-19の影響があったにも関わらず伸び続けており、今年は上海工場が可能開始し、来年はベルリン工場も稼働開始を予定しているため、これからも伸びるペースは衰えないだろう。

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テスラの12ヶ月平均の納車台数(2020 Q1 IR資料より)

普通に効率的に生産できれば、ステイタスではなくなるから、激しい値崩れを起こすであろう。そうでなければ、台数は売れないし、そうなれば、利益率は下がり、普通の生産台数の少ない自動車メーカーになるだろう。

テスラの価格設定について根本的に勘違いをしているようだが、そもそもテスラは電気自動車の値崩れを起こすことを理念に据えた企業である。

先ほども指摘したとおり現在の利益率は高すぎる水準であり、今後新工場の稼働によって生産能力が増えれば供給が需要に追いつき、当然ながら販売価格は下がる。

6.まとめ

しかし、それもあり得ない。前述のように、そうであれば、トヨタの方が、同じ自動車という用途の中で、実験や進歩、革新を得ていくわけだから、経験値、実績値、既存の顧客の多さというのがアドバンテージになるはずだ。

トヨタはレクサスブランドでUX300eを発表したが、EVで最も重要な要素である「充電性能」や「電費」を見ると、テスラが10年前に設計した一番最初のモデルSに勝てるかも怪しい。

テスラが多くのオーナーや投資家に評価されている理由の一つが「優秀なUX」だが、もしトヨタがテスラを超えるUXを提供するためには多大な犠牲を払い、多くの資産を手放す必要があるだろう。

 

以上のように、耳障りの良い希望的観測を書くのは簡単だが、事実に基づいて冷静に分析することで初めて真実にたどり着くことができる。

しかし今回の記事はさながら「iPhoneが登場した際にガラケーしか使ったことが無い人が書いた記事」を見ているようだ。

こんな記事がアクセスランキングの上位に居るということは、それだけ多くの人に「嘘」を広めたということであり、もし多くの人がこれを信じて行動した場合にどうなるのかは想像に難くない。

かつて国内のガラケーメーカーはスマホへの移行に失敗して携帯電話業界から撤退せざるを得なくなったが、もし車業界で同様のことが起き、ての自動車メーカーが撤退してしまったら国内の経済はどうなってしまうのだろうか。

そんな未来を何としても避けることが、筆者の願いである。

※関連記事:10年後にトヨタは無くなる?テスラに学ぶ「自動運転」と「電動化」の重要性

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今回も最後までご覧いただきありがとうございました。
自分の記事が将来どんな影響を与えるかを考え、己の良心に問いかけてほしいと思います。

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