【オーナーが解説】テスラがトヨタの時価総額を抜き、世界一となった本当の理由
皆さんおはようございます、八重さくらです!
今回は2020/7にテスラが時価総額でトヨタを抜き、世界一となった理由を徹底解説します!
テスラは自動車メーカーの時価総額として2020年7月1日にトヨタを抜き世界一となり、その後7月11日にはトヨタ・ホンダ・日産の合計を上回ると報道された。
これは時価総額の大半を占める株価の高騰によるもので、投資家がテスラの将来性を評価している証拠であるが、一体なぜ世界中の投資家がテスラに夢中になっているのだろうか。
確かにテスラは2003年の設立から十数年しか経っておらず、2019年の実績ではトヨタの生産台数の30分の1であり、会社の規模はまだまだ小さい。しかしテスラはAIやクリーンエネルギーのテック企業という側面をもっており、従来の自動車メーカーと同じ基準で評価すると、その価値を見誤ることになる。
そんなテスラがトヨタを抜いたことには当然様々な理由があるが、毎日テスラに乗っているオーナーからの目線で「本当の理由」を伝えたい。
もくじ
2. 自動車メーカーとしての価値
2-1. テスラのある生活スタイル
2-2. 電動化とUX(ユーザ体験)
2-3. 自動運転とロボタクシー
3. クリーンテック企業としての価値
3-1. 持続可能な世界を目指すテスラ
3-2. 再エネと蓄電池
3-3. 蓄電池と自動車の組み合わせ
1. そもそも時価総額とは?
しばしば会社の価値を示すために使われる「時価総額」という数字。テスラのような株式会社の場合は主に株価が時価総額の大半を占め、言い換えれば時価総額は投資家から「これだけの価値がある」と評価されているということだ。
そして一般的に投資家は現時点ではなく将来性を重視して投資するため、ここでいう「価値」とは現時点ではなく「将来の価値」ということになる。
よってテスラの時価総額がトヨタを超えたということは、投資家から「テスラはトヨタより将来性がある」と見られている証拠である。
2. 自動車メーカーとしての価値
まずは自動車メーカーとしてのテスラの価値について考えてみよう。
オーナーがテスラを説明する際に「従来の車とは違った新しい乗り物」と表現することがあるが、筆者はよく「ガラケーからスマホになったような感覚」と説明している。
スマホが登場したとき、機能的にはガラケーと大差なかった。どちらも電話やメールができ、カメラやネットが使え、そしてアプリのインストールにも対応していた。それどころか、発売当初のスマホにはお財布ケータイやワンセグはなく、ガラケーに劣っていた機能さえあった。
では何が違ったのかといえば、ズバリ「デザインや操作性などのスマートなUX(ユーザー体験)」である。
2-1. テスラのある生活スタイル
とある初夏の朝、眩しい木漏れ日で目が覚める。
スマホを見るとテスラからソフトウェアアップデートの通知が来ていたので、インストールボタンを押した。
昨日はバッテリーが空のまま帰宅したが、寝ている間にほぼ満充電まで回復したようだ。
顔を洗って朝食をとっている間に、ソフトウェアのアップデートが完了した。
ついでに車内の温度を見ると40度を超えていたため、スマホからエアコンを入れる。
電気自動車にはエンジンがないため、閑静な住宅街や車庫内でも排ガスや騒音の心配はいらない。
玄関を閉めて車に近づくと自動でドアが開き、そのまま涼しい車内に乗り込む。
電源スイッチはなく、ブレーキを踏むだけで自動でドアが閉まり、出発の準備が完了する。
シフトを入れて出発だ!
しばらく電気自動車ならではの気持ち良い加速を堪能したので、今朝のアップデートで追加された自動運転の新機能を試してみよう。
レバーを引いて自動運転をオンにしたら、あとは軽くハンドルを持って監視するだけだ。
しばらく走ると運悪く赤信号が迫ってきたため、ブレーキを踏む準備をしたが・・・
今回のアップデートにより自動的に減速して、しっかり停止線で停まるようになっていた!
今はまだ発進時に操作が必要だが、世界中のテスラ車から集めたデータがあればいずれ自動化されるだろう。
高速に入るとナビと連動して自動的に合流、分岐、車線変更を行い、遅い車も自動で追い越す。
高速を出るまではウィンカー操作も含めて必要な操作は全て自動で行う。
目的地に着き、用事を済まして外に出ると雨が降り出した。
車は見える位置に停めてあるが、運悪く傘を持っていなかった。
こんなときはスマホを取り出してボタンを押すだけで車が無人で動き、目の前までやってくる。
帰りは渋滞に見舞われたが、静かで振動がないことに加えハンドルを持って監視するだけなので、ほとんど疲れずイライラする事もない。休憩中はコンセントを挿すだけ120km走行分を最短5分で充電でき、スキマ時間にはYoutubeやNetflix、本格的なゲームも楽しめる。
そして毎月提供されるソフトウェアの更新により新しい機能が追加されたり、走行性能が上がったりして、常に新車に乗っているような満足感が得られる。
これは決して未来の話しではなく、既に世界中で販売されている車である。
この「従来の車の常識を変えるUX」こそがテスラの強みであり、投資家が将来性を感じている理由の一つだ。
2-2. 電動化とUX(ユーザ体験)
それでは、なぜテスラはこれらのUX(ユーザ体験)を実現できたのだろうか。
もちろん様々な理由があるが、筆者は電気自動車であることが一番大きな理由だと考える。エンジンという足かせが無くなれば車はスマホや家電製品と同じ考え方で作ることが可能となり、実際にテスラは「スマホに車輪が付いた乗り物」と表現するオーナーが多い。
例えば気持ち良い加速、静かで振動が少ない乗り心地、高度な自動化やコネクテッド機能などは従来の車でもコストをかければ実現可能だが、500万円程度の車で同等のレベルを全てを実現するのは難しい。
加えてエンジンをかけずに長時間エアコンを動かしたり、自宅で燃料を補給すること、さらに屋根で太陽光から燃料を作り出すことは電気自動車にしかできない。
確かに既存メーカーも電動化に取り組んでいるが、電動化すればすぐに優秀なUXが実現可能かと言えばそれは難しい。もっとも電気自動車の使い勝手を左右すると言われているのが「充電速度」と「電費(航続距離)」だが、様々なメディアで「電気自動車に必要な技術はすべてあり、いつでも発売できる」と言われているトヨタがレクサスブランドで発売したUX300eを見てみよう。
欧米を中心として世界的に350kW対応の急速充電器の整備が進んでおり、ポルシェ タイカンやテスラ全車など市販車でも250kWへの対応が当たり前になっているなか、満を持して発売されたレクサスUX300eの急速充電速度は最大50kWまで。
さらに同じSUVであるテスラモデルYの電費(WLTP航続距離とバッテリーサイズから計算)と比較すると2割以上劣り、充電速度と電費をかけ合わせて計算した5分の急速充電で走れる理論上の航続距離は約6倍もの差がついている。
一部のメディアや投資家はこのUXを実現する技術について「テスラは他社に5年から10年ほど先行している」と評価されており、これがテスラの価値の1つである。
※参考:テスラ、車載電子基盤でトヨタやVWを6年以上先行(日経XTECH)
2-3. 自動運転とロボタクシー
UXと並んで自動車メーカーとしての価値を上げているのが自動運転機能だ。
テスラの自動運転が他の自動車メーカーと大きく異る点は「高価なLiDAR(レーザー式距離測定)は使用せず、安価なカメラやミリ波レーダー、超音波センサーのみを使用する」ことである。
この中でも最大の役割を担うのがカメラとAIによる画像認識技術だが、AIの開発には大量の学習用データが必要になる。そこでテスラは世界中を走っている数十万台のテスラ車を利用し、インターネット経由で容易にデータを収集できる仕組みを構築した。
※関連記事:10年後にトヨタは無くなる?テスラに学ぶ「自動運転」と「電動化」の重要性
これによりすでに世界中を走っている数十万台のテスラ車やこれから販売する全てのテスラ車はソフトウェアのアップデートで完全自動運転に対応でき、オーナーが車を使用していない間は自動運転のロボタクシーとしてお金を稼ぐことができるようになる。
このことから、一部の投資家からは「完全自動運転が完成したあとは車の販売はせず、移動をサービスとして提供する企業になる」という見方もある。
これが投資家が「将来、自動車メーカーとしてのテスラの価値が上がる」と判断したもう一つの理由だが、裏を返せば「完全自動運転が実現できなかった場合は倒産の危機に瀕する」とも言える。
3. クリーンテック企業としての価値
多くの人はテスラを「自動車メーカー」としか見ていないが、改めてテスラの企業理念とエネルギー製品に目を向けてみよう。
3-1. 持続可能な世界を目指すテスラ
テスラ公式サイトの企業情報をみると、こう書かれている。
ここに書かれている「世界の化石燃料への依存」とは車や物流だけでなく、我々が日常的に消費する「電力」も含まれている。電力を作る方法は国や地域によって多少異なるが、石炭や石油、天然ガスなどの火力発電に頼る方法が一般的であり、日本でも約8割が火力発電により賄われている。
これらの化石燃料の依存から脱却するための次世代のエネルギーとして期待されているのが風力や太陽光などの「再生可能エネルギー(再エネ)」だが、再エネは天候や日照条件により出力が変動するため、これまでは全体に占める割合は高くなかった。
そこで注目されているのが大容量の蓄電池であり、テスラは一般家庭向けの太陽光発電や高性能なリチウムイオン蓄電池のコストを下げることで、安価で安定した再エネ電力の普及を目指している。
3-2. 再エネと蓄電池
それでは、一体はぜ再エネが増えると電力網が不安定になるのだろうか。
例えば太陽光発電の発電量は太陽から届く光の量に大きく左右されるが、雲によって太陽が遮られた場合「数秒の間に発電量が半分以下に下がる」ということが発生する。このとき、もし太陽光発電が全体の1割程度であれば太陽光発電以外の電気で賄うことができるが、もし全体の半分が太陽光発電だったらそれも難しい。
発電所では常に「発電量>使用量」となるように発電量を調整しており、もしこの関係が逆になってしまうと最初は周波数が変動して50/60Hzを維持できなくなり、回復しなければ発電設備の保護のため発電が停止する。実際にオーストラリアでは周波数の変動により、何度か大規模な停電が発生した。
※参考:オーストラリア南部の州全土が停電、再生エネルギーに過度の依存へ疑問符
そこでテスラでは高性能なリチウムイオン電池を利用した電力系統用の大規模な蓄電池「メガパック」を開発し、オーストラリアに導入。再エネの発電量が急に変化した場合に蓄電池から充放電することで、周波数の変動を抑えて安定した電力を供給している。
※関連記事:【数十億円!?】超高額な蓄電池で初期費用が回収できる理由
また、電力系統用に加えて一般消費者向けの製品として太陽光発電(ソーラールーフ)や家庭用蓄電池(パワーウォール)も販売しており、電池の製造経験を活かして低価格でコストパフォーマンスに優れる製品を展開している。特に家庭用蓄電池はこれまでの製品、例えばニチコン製の容量12kWhモデル(ESS-H1L1)が420万円の希望小売価格に対し、テスラのパワーウォールは13.5kWhでわずか4分の1の99万円を実現している。
3-3. 蓄電池と自動車の組み合わせ
再エネとともに次世代の電力網として期待されているのがVPP(仮想発電所)だ。
VPPは個人宅などに設置された比較的小規模な太陽光発電や蓄電池を組み合わせ、これらを連携することで1つの発電所と見立てて機能させる。これは環境にやさしいだけでなく、特定の発電・送電設備に頼らないため災害に強く、電気料金を大幅に削減できるとされている。
実際にオーストラリアではテスラのパワーウォールを利用して5万戸が参加する大規模な実証実験が進んでおり、1,100戸への導入が完了している現時点において、既に電力の安定化で一定の成果を収めている。
※参考:Tesla Virtual Power Plant with Powerwalls proves successful in early phase, report says
※公式サイト:South Australia's Virtual Power Plant
現時点では定置型蓄電池であるパワーウォールを利用しているが、将来的には駐車場に停めている電気自動車のバッテリーを活用することが期待されている。一般的に車は走っているときにしか価値を発揮できないが、例えばVPPに参加して発電力に余裕がある時間帯に充電して電気の使用量が多いときに放電(売電)することで、価格差を利用して利益を上げることが可能になる。
電気自動車を活用するにはさらにバッテリーの寿命を高める必要があるが、テスラは2020年9月に予定しているバッテリーデーにおいて100万マイル(160万km)の寿命をもつバッテリーの発表を予定しており、VPPへの活用が現実味を帯びてくると期待されている。
※参考:Exclusive: Tesla's secret batteries aim to rework the math for electric cars and the grid
4. まとめ(気候変動対策への投資)
2020年8月現在で合計35兆ドルを運用する1,200の投資家が主導し、世界に多大な影響を与えている「インベスター・アジェンダ」をご存知だろうか。
2019年のG20が開催される前に「パリ協定を達成するための行動」を各国政府に促す公開書簡を取りまとめ、2020年のコロナ禍からの経済回復でも気候変動対策を重視するよう促している。
※参考:インベスター・アジェンダ:COVID-19 パンデミックからの持続可能な回復
これを基に、例えばドイツでは電気自動車の購入に対して1台あたり最大6000ユーロ(約75万円)の強力な補助金を導入し、全てのガソリンスタンドに急速充電器の設置を義務付けた。(ドイツの多くのガソリンスタンドではコンビニを併設し、休憩場所の役割を担っている)
また、フランスでも1台あたり最大7,000ユーロ(約87万円)の補助金を導入、中国でも充電インフラに約15億ドル(約1,600億円)を投入すると発表されている。
※参考:ドイツがコロナ被害への経済対策として電気自動車購入補助の倍増を発表
※参考:コロナ不況対策で中国が電気自動車用の充電インフラに投資
一方でテスラが得意としている「電気自動車」と「クリーンエネルギー」はどちらもテスラのミッションである「世界を持続可能なエネルギーへ。」に基づいたもので、気候変動対策の有力な手段である。
それと同時に、上記のようなインセンティブはテスラにとっても追い風となり、テスラの事業内容はまさに世界が求めている分野であり、将来に渡って投資を集めやすい企業と言えるだろう。
今回も最後までご覧いただきありがとうございました!
時価総額の変化には必ず理由があることがお分かりいただければ幸いです。